以前はお墓は代々受け継ぐものとされていましたが、現在は遠方に住んでいるなどさまざま事情から、永代供養や散骨などを選択する方も増えています。
そこでここでは、お墓の専門業者に相談に訪れたAさんの事例を元にして、お墓に関するさまざまな疑問について見ていきたいと思います。
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本家のお墓に分家の父親が入っている…誰がお墓を継承する?
Aさんの本家のお墓は、現在住んでいる場所から離れた所にあります。ちなみにお墓がある町には、親戚が誰も住んでいません。
実は亡くなったAさん父親は分家なのですが、本家のお墓に入っています。
母親はまだ健在ですが、いずれ夫と同じお墓に入る予定で、すでに墓石に名前を彫ってあります。
その墓には50代で亡くなった本家の長男も入っており、これからどうすれはよいのか、誰が継承すればよいのかわからず、相談にきたようです。
お墓を承継するのは誰?
Aさんの話によると、本家の子供達と私達を含む分家の子供達は、お墓のある町には誰も住んでいません。
ですからAさんの母親は本家にお墓に入る予定になっているものの、お墓は誰が承継するのは誰かということは決まっていません。
Aさん自身は、将来的にそのお墓に入るつもりはなく、子供達も娘3人であることから、自分が継ぐことになれば後々子供達が困ることになるのではないかと悩んでいるようです。
実はお墓の承継に関しては、民法第897条「祭祀供用物の承継」で次のように規定されています。
『(祭祀に関する権利の承継)
第897条系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。
ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める』
このように被相続人からの指定があれば、その指定された方がお墓を承継することになります。
これらで決まらない場合は、最終的には家庭裁判所が承継者を決めることになっています。
このように民法上は、お墓だけでなく仏壇や位牌なども、同じ方が承継することになっているようです。
承継者は○○でなくてはならない!という決まりはない
このようにお墓の承継者は、誰でなくてはいけない、という特別な決まりはありません。
前述したように亡くなった方がお墓を承継する方を指定していた場合、指定された人が承継者となりますし、承継者に家族や親族以外の方を指定することも可能となっています。
継承者を指定する場合は、遺言書のようにきちんとした書面でなくてもよく、口頭でもよいとされています。
ただし、承継者が家族や親族以外の方となる場合には、あらかじめ、自分の家族や承継者に指定される方、承継者に指定される方の家族などの理解を得ることが大切です。
遺言などで特に指示がない場合には、通常、慣習に従って決められます。
長男や配偶者が承継するのが一般的ですが、次男が家を継ぐといった場合などは、家族や親族の話し合いによって長男や配偶者以外や嫁いだ娘でも承継者になることも可能です。
また、子どものいない家や子どもがまだ幼い家では、親族が承継する場合もあります。
墓地によって承継者の決まりも
法律上は特に決まりのないお墓の継承者ですが、お寺によっては、承継者は血縁者と規定しているところもあります。
またお寺や霊園の規則により、承継者が親族でない場合には霊園側の同意を必要な場合もあります。
このように墓地側が定めた規則がある場合には、後々トラブルにならないように、墓地の所有者と話し合っておくことが大切です。
お墓について誰と話し合えばよい?
お墓の継承者や今後どうしていくかなどについては、一度兄弟や親戚同士できちんと話し合わなければなりません。
しかし、いきなり親戚を全部集めて「じゃあ、今後お墓をどうしましょう」と言っても、おそらく話はうまくまとまらないように感じられます。
例えば相談者のAさんは、仮に自分が本家のお墓を継承すれば、嫁いだ娘達が困ることになると考えています。
ですから、できれば亡くなられた本家の奥様に、本家のお墓の祭祀継承を渡してしまいたい」と考えているようですが、専門業者によると、この場合はやはりまずその奥様本人と話し合いをするべきであるようです。。
それで同意を得られたら、兄弟や親戚などの周辺に根回しした方がよいでしょう。
分骨するという方法も
話し合った結果、もし本家と分家それぞれで遺骨を管理するという結論になった場合には、分骨するという方法もあります。
分骨とは、故人の遺骨を別々の場所に分けて納骨することを差していいます。
Aさんの場合、自身の父親の分だけ分骨してもらい、そちらでお墓参りするということも可能であると思われます。
分骨する場合の手続きとは?
すでに埋葬されたお骨を分骨される場合は、現在、埋葬されている墓地の管理者から分骨証明書を発行してもらう必要があります。
分骨証明書は申請すれば発行してもらえますが、分骨後の墓が用意されているか、あるいは受け入れを許可されているかなどの書類を求められることもありますので、事前に確認しておくようにしましょう。
また埋葬された遺骨を取り出して分骨するためには、墓石の納骨室、つまりカロートを開け、骨壺を取り出す作業が必要となります。
墓石を動かすことは大変な作業ですので、できるだけ最寄りの石材店など専門業者に依頼しましょう。
なお、お寺や霊園墓地の場合は管理事務所が手配してくれる場合もありますので、分骨することが決まったらそれぞれ手続きや費用、必要書類を確認してください。
また、分骨をする際は「閉眼供養」などの法要を行うのが一般的ですので、お寺側へもあらかじめ連絡をしておくとよいでしょう。
新たな墓地に分骨した遺骨を埋葬する場合は、事前に寺や管理事務所などの管理者に連絡し、手続きをする必要があります。
親族が納得する形での分骨を
分骨する際には、家族や親戚など遺族の意向も汲んで話し合いをすることが非常に大切です。
中には分骨という形に抵抗を感じる方がいる場合もありますので、皆が納得する形で、しっかりと話し合い準備をして分骨することをおすすめします。
お骨が混ざってしまっている場合は?
遺骨を骨壺や瓶などに入れてお墓に埋葬している場合はよいのですが、Aさんの住んでいる地域では遺骨をさらしに入れている場合もあり、さらしの袋は1年ぐらいでボロボロになってしまいますので、遺骨が混ざっている可能性が高いと思われいます。
また2人以上の遺骨が埋葬されている場合は、骨が誰のものかはわからないこともあります。
専門業者によれば、そういう時には、例えば明らかに父親の遺骨でないかなという骨があればそれだけを分骨して、新たにお墓に入れてあげるようにするという方法もあるそうです。
またそこの土だけ持っていって母親の遺骨と一緒に入れたり隣に並べるということも可能だそうですよ。
永代供養という選択肢も
Aさんは夫婦で話し合い、子供達のためにも今後どちらも本家の墓には入らないと決めています。
ですから万が一自分が本家のお墓を継承することになっても、最終的には永代供養になってしまうだろうと考えています。
永代供養とは、寺院や霊園が遺骨を預かり、供養や管理を行ってくれる供養方法のことです。
近年では、お墓が継承者がいないといった理由から、このような供養方法が増えており、Aさんのようにお墓の継承者について悩んでいる方にとっては、永代供養というのものもひとつの選択肢として考えられます。
散骨や樹木葬などを考える方も増えている
永代供養の他にも、散骨や樹木葬などさまざまな供養方法を選択する方が増えています。
散骨とは、遺骨を火葬した後に粉末状にして、海や山など本人が希望した自然環境の中で撒いて、自然に遺骨を還す方法です。
また樹木葬とは、墓石の代わりにシンボルツリーを植え、それを墓標としてシンボルツリーの根元に遺骨を埋葬する方法です。
樹木葬の特徴は、基本的に家族が一緒に埋葬されるお墓ではなく、故人1人が埋葬される個人墓だという点です。
またほとんどの樹木葬は、継承者を必要としない永代供養墓となっていますし、さらには墓石を購入するお墓に比べて樹木葬は格段に費用が安い点も特徴でしょう。
それからお墓を持たない方法としては、遺骨を遺石にするという場合もあります。遺石は「遺す」「石」っと書きますが、要するにお骨を加工して、手元に残すという手元供養の一種となっています。
散骨してもお墓は必要?
最近は散骨を選択する方も多いですが、たとえ散骨にしても全て撒いてしまうのではなく、お参りする場所を決めてそこに残りの遺骨を納めている方もいらっしゃるようです。
しかしAさんが相談した専門業者によると、これは遺骨を大事に扱う日本独自の考え方であり、アメリカなど諸外国では、本人が「散骨してくれ」と言えば全ての遺骨を散骨するのが一般的なようです。
散骨してもお墓を持つかどうかは夫婦で相談してもよいですし、それを今後供養する子供達に委ねるという考え方もあるでしょう。
それでもやはり後々迷惑がかかるのは嫌だという方は、永代供養付きのお墓を購入するという方法もあります。
遺骨を家においておくのは可能?
自宅に遺骨を安置しておくことは、法律上特に違法ではありません。法律では、故人の遺骨をいつまでに納骨するかについて規定していないので、例えばずっと自宅に置いたままにしておいても大丈夫です。
Aさんが相談した専門業者によると、経済的な理由などから、また内縁の奥さんの遺骨をずっと押し入れに入れておくというケースもあるようです。
中には、遺品整理した際に遺骨が見つかることもあるそうです。ですから今はそういうニーズに合わせて、仏壇の下に納骨できるスペースのある納骨家具というものもあります。
ただし一度お墓に納骨してしまったら、再び遺骨を自宅に戻すことはできなくなるので、その点は注意が必要です。
檀家を抜けることは可能?
Aさんはお墓を別の場所に移したり、樹木葬に変えたり散骨したりする場合、今まで入っていた檀家を抜けることは可能なのかということも気にかけていました。
結論から言うと、檀家は辞めることは可能です。しかし、実際に檀家の辞めることはけして簡単ではありません。
檀家を辞めることを「離壇」といいますが、お墓を別の場所に移すには自治体から「改葬許可証」を発行してもらう必要があり、改葬許可申請書には、元々お墓があった寺院の署名と捺印が必要となります。
さらに、お寺に対しても離檀料を支払わなければなりません。離壇料の相場はだいたい5万円~20万円ですが、お寺側とってみれば檀家が少なくなることは運営にも影響するため、高額な離檀料を請求されるといったトラブルも実際にはあるようです。
突然離壇を申し出たり、今までお世話になったお寺に対して礼儀を欠いた行動に出ると、トラブルの原因となることも多いので、離壇を考えている際には事前に相談するなどの配慮が必要です。
ちなみに、今の檀家を抜けて他の檀家に入ることももちろん可能ですよ。
父親の高齢の兄がキリスト教徒…どこのお墓に入る?
Aさんの亡くなった父親は次男で、10歳ほど歳が離れた長男がいます。この方は実はキリスト教徒であり、現在も健在で一人で暮らしていますが、例えば亡くなった際に、仏教徒のお墓に一緒に埋葬してもよいのかということでAさんは悩んでいます。
たとえ家族や夫婦であっても信仰する宗教が同じとは限りませんし、遠方に住んでいる親族であればなおさらです。
家族や夫婦は同じ宗教を信仰しなくてはならないという決まりはありませんし、自由に宗教を選べる時代です。
しかし、家族や夫婦間で信仰する宗教が異なる場合に困るのが、やはりお墓の問題です。
通常はそれぞれ宗教にそったお墓の形式がありますが、信仰する宗教が違う場合はどうすればいいのでしょうか。
同じお墓に埋葬される場合が多い
信仰する宗教が違う場合は、別々のお墓を建てることもあります。例えば 夫婦間で信仰する宗教は違う場合も、別々のお墓を建てることはもちろん可能です。
しかし、多くの場合夫婦で信仰する宗教に違いがあったとしても、同じお墓に一緒に埋葬されることが多いようです。
先祖代々のお墓があり、新たにお墓を建てずにそこに納骨する予定である場合も、同じお墓に納骨することが多いのが現状です。
ただ、信仰心が厚くきちんとその宗教に合ったお墓を建てたいという場合もあると思います。
その際は生前から夫婦でよく話し合っておく必要がありますし、 亡くなってから改宗し同じお墓に入るという選択もあり、別々のお墓に入るのも一つの方法です。
ただし宗教は違っても夫婦で同じお墓に入りたいというケースは多くあります。
その場合は、お寺ではなく民営や公営の霊園を選び、お墓を建てると良いでしょう。 民営霊園や公営霊園は宗教不問であることが多いので、お墓について特に決まりはありません。
また最近ではお寺であっても宗教不問としている所もありますが、生前の宗教は問わないが、お墓に入るまでの改宗を条件としている場合があるため注意が必要です。
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